2017.08.26 A.I.

スタジアムにスマートスピーカー、AIでファン体験向上

■スポーツ世界、ファンに対するサービス向上に人工知能(AI)技術を導入

イチロー選手も長らく在籍した米メジャーリーグ(MLB)のシアトル・マリナーズは、今シーズンから本拠地セーフコ・フィールドに51個あるスイートボックスに、地元企業である米アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカー「Amazon Echo(エコー)」を設置した。Echoは、同社のAIを活用した音声認識・対話機能基盤「Alexa(アレクサ)」に対応している。

 

設置の目的は、観客に対する「パーソナルアシスタント」として機能させること。Echoはマリナーズ仕様にしてあり、観客が「アレクサ、マリナーズに◎◎を頼む」などと英語で語りかけるとEchoがマリナーズのスケジュールやトリビアを読み上げたり、スイートボックス内に設置されたテレビのチャンネルや音量を変更してくれる。

 

飲食物を注文することも可能だ。Alexaによってゲストのさまざまな欲求・興味に答えることができるばかりでなく、スイートボックスに配する係員の人数削減につなげる狙いもありそうだ。

 

米アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカー「Amazon Echo」(写真:Amazon.com)
米アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカー「Amazon Echo」(引用元:日本経済新聞

マリナーズでインフォメーションサービスを担当するデイブ・カリー副社長は「Alexaとの連携が進化すれば、スイートボックスを訪れる観客の試合での体験を向上させる新たな手段やインタラクティブな機能を付け加えることができる」と話す。今後、Alexaを使ったサービスを追加していく考えだ。

 

■チャットボットをスタジアム専用アプリに

一方、AIを用いた自動対話技術のチャットボットを導入するチームも複数登場している。米プロアイスホッケーNHLのタンパベイ・ライトニングは2017年からバーチャル・アシスタント技術を開発する米Satisi Labsと提携、同社のチャットボット機能をチームのウェブサイトや本拠地アマリー・アリーナの専用アプリに組み込んだ。

 

ファンがチケットや駐車場、飲食などに関する質問を書き込むと、チャットボットの「ThunderBot(サンダーボット)」が回答する仕組みだ。将来的に、チームのフェイスブック・メッセンジャーにも導入される予定だという。

 

ライトニングのエリック・ブランケンシップ マーケティング副社長は声明で、「Satisi Labsとの提携を通じてファンに最新テクノロジーを提供することは、今後数年でとても価値のある資産となる。我々のファンが試合を観戦し、チームの動向をフォローすることが簡単にできるようになるからだ」と、AI機能導入のメリットを語る。

 

ライトニング以外にも、MLBのミルウォーキー・ブルワーズがチームのマスコット「バーニー・ブルワー」から名前を取った「バーニー・ボット」を導入したり、今シーズンから新本拠地サントラスト・パークをオープンしたアトランタ・ブレーブスがライトニングと同じくSatisi LabsのAIを採用した。このように、スタジアムやアリーナの専用アプリにチャットボットを取り入れる動きは米国で大きなトレンドになりつつあるようだ。

 

■AIが試合のベスト場面を抽出

一方、世界的に有名なスポーツイベントにもAIが導入されている。2017年7月3日から同16日まで開催されたテニスのウィンブルドン選手権である。会場のオールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ(AELTC)が、米IBMが持つAI技術「Watson(ワトソン)」を利用したサービスを展開した。

2017年のウィンブルドン選手権男子シングルスで優勝した、ロジャー・フェデラー選手。写真は準決勝でトマーシュ・ベルディハ選手と対戦する様子(写真:共同)

2017年のウィンブルドン選手権男子シングルスで優勝した、ロジャー・フェデラー選手。写真は準決勝でトマーシュ・ベルディハ選手と対戦する様子(引用元:日本経済新聞

 

「IBM SlamTracker」と呼ばれるライブのスコアボードでは、同社のWatson API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を使用して、プレー中のボール位置や速度のデータ、選手の位置などのリアルタイムデータを分析。全試合のスコアはもちろん、選手の調子や戦術のプレー分析などをリアルタイムで大会のウェブサイトなどに表示した。

 

さらに大会のハイライト動画の作成についても、IBMのAI技術が導入された。6つのメインコートで行われた試合の動画から、歓声や選手の動き、試合のデータなどに基づいてベストの場面を抽出する作業をAIが支援したという。

 

これはゴルフの4大大会の1つであるマスターズに続く導入だった。米国のIBMワトソン研究所のジョン・スミス・マルチメディア担当ディレクターは「ゴルフだと複数のホールで同時に数多くのアクションが起こる。テニスもそれに似ていてセンターコート以外にも多くのプレーが行われる。ファンがユニークな方法でテニスを見ることを望んだ」と複数のコートをカバーし、作業できる効率の良さを強調していた。

 

もちろん大会アプリにもWatsonの技術が導入された。スマートフォンやタブレット端末にアプリをインストールしておけば、音声認識機能によって「アスク・フレッド」と話しかけると、会場の案内やエンターテイメントについて情報を得ることができた。

 

IBMとの提携についてAELTCのアレキサンドラ・ウィリス部長は「IBMの技術革新によって、試合をどこで見ていても、どんなデバイスで見ていても、世界中のファンとつながることができる。スポーツの素晴らしいデジタル体験の提供に力を入れている我々の方針にとって重要な存在だ」とその意義を語る。

 

AIを身近にする機器として、米国ではスマートスピーカーの普及が進みつつある。“老舗”のアマゾンが先行し、それを米グーグルが追い、米アップルも2017年12月に発売する予定だ。一方、IBMはWatsonのスポーツ界での展開を独自に進めている。スポーツファンの獲得や拡大にAIが不可欠な存在となる未来は、もうすぐそこに来ているのかも知れない。

(記事引用元:日本経済新聞